『十角館の殺人』は、綾辻行人が1987年に発表した長編推理小説であり、「新本格ミステリー」の代表作として広く知られています。この作品は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』に影響を受けた孤島ミステリーでありながら、独自の巧妙な仕掛けと驚愕の叙述トリックによって、ミステリー界に新たな風を吹き込みました。
- 独自のトリックと伏線の巧妙さ
- 新本格ミステリーの代表作としての影響
- 巧妙な伏線とミスリードの構成
- 叙述トリックを駆使し、読者の認識を巧みに操作する構成
- 文庫版の購入方法
十角館の殺人とは?傑作ミステリーの魅力

- 綾辻行人が生み出した新本格ミステリー
- 『十角館の殺人』のあらすじ
- 登場人物
- なぜ十角館の殺人は名作とされるのか
- 読者を驚かせる巧妙な伏線とトリック
綾辻行人が生み出した新本格ミステリー
新本格ミステリーとは、1980年代に登場した推理小説のムーブメントで、論理的なトリックやクラシカルな密室殺人、孤島ものといった伝統的な要素を現代的に再構築したものです。綾辻行人はこの潮流の代表的な作家であり、『十角館の殺人』はその先駆け的作品として高い評価を受けています。綾辻行人氏は、『十角館の殺人』以外にも多くの優れた作品を執筆しており、その中でも特に人気の高い作品として、『時計館の殺人』、『水車館の殺人』、『迷路館の殺人』があります。これらの作品は、綾辻行人氏の巧妙なトリックや独特の世界観を堪能できるものばかりです。ぜひ手に取って読んでみてください。
『十角館の殺人』のあらすじ

物語は、大学のミステリー研究会のメンバーが、かつて殺人事件が起きた孤島・十角館を訪れるところから始まります。メンバーたちは、ミステリー小説好きが集まる研究会らしく、島の不気味な雰囲気や過去の殺人事件に興味を抱きながらも、サークル活動の延長として軽い気持ちで滞在を楽しむ予定でした。しかし、この無邪気な探究心がやがて恐怖へと変わっていきます。
初日の夜、メンバーの一人が遺体となって発見され、状況は一変します。島には外部との通信手段がなく、船も定期的には来ません。孤立無援の中、残されたメンバーは混乱しながらも、次第に疑心暗鬼に陥っていきます。誰が殺人者なのか、誰が次の犠牲者になるのか——その不安が渦巻く中、彼らは極限状態の心理戦を繰り広げることになります。
その後も次々とメンバーが命を落としていく中、彼らは犯人を見つけるべく推理を始めます。しかし、仲間の誰が信用できるのか分からず、情報が錯綜する中で、全員が自らの安全を優先し、次第に協力関係が崩れていきます。彼らの間では、仲間同士の対立が深まり、誰もが疑心暗鬼に陥る中で、新たな犠牲者が出るたびに緊張感が増していきます。
一方、本土ではミステリー研究会のOBである江南孝明が、偶然にも過去の事件に関する手がかりを得て独自に調査を開始していました。彼は十角館の元所有者である建築家・中村青司にまつわる奇妙な過去を掘り起こし、彼の家族が巻き込まれた悲劇が現在進行形で起きている惨劇と密接に関係していることに気づきます。そして、江南がある重大な事実にたどり着いたとき、すべての謎が氷解し、十角館の殺人事件の驚愕の真相が明らかとなるのです。
江南の調査が進むにつれ、過去の事件の闇が深まっていきます。中村青司が築いた十角館の構造そのものが、事件に重要な意味を持っていたことが明かされるとともに、彼の設計に込められたある意図が浮かび上がります。そして、事件の背後に潜む動機と関係者の思惑が次第に明らかになるにつれ、江南自身もまた危険な陰謀に巻き込まれていくのです。
そしてついに、江南がある決定的な証拠を掴んだとき、すべての謎が解け、真実が明らかになります。読者が思いもしない驚くべき叙述トリックが施されており、ある登場人物の正体がこれまで読者の想定とはまったく異なるものであることが判明する瞬間、物語全体の見え方が劇的に変わるのです。そして、この結末がミステリー小説史上に残る名作として本作を際立たせる要因となっています。
登場人物

- 江南孝明: ミステリー研究会のOBで、過去の事件の謎を独自に調査する。
- エラリイ(エラリー・クイーン): ミステリー研究会の一員で、推理小説に造詣が深い。
- ヴァン(ヴァン・ダイン): 冷静沈着な性格で、グループのリーダー的存在。
- カー(ジョン・ディクスン・カー): 冗談好きでムードメーカー的な存在。
- ポウ(エドガー・アラン・ポー): 物静かで知的な雰囲気を持つ。
- ルルウ(モーリス・ルブラン): 美しく聡明な女性メンバー。
- アガサ(アガサ・クリスティ): 歴史や文学に詳しく、知識人タイプ。
- オルツィ(エマ・オルツィ): 小説や映画に関する知識が豊富。
- 中村青司: かつて十角館を建てた建築家で、過去の事件に関わる人物。
それぞれの登場人物が持つ背景や関係性が、物語の進行とともに絡み合い、やがて読者を驚かせる結末へと導いていきます。
なぜは『十角館の殺人』名作とされるのか
『十角館の殺人』が名作とされる理由の一つは、その見事な構成と伏線の張り方にあります。物語は二つの視点で描かれ、読者は異なる情報を得ながら推理を進めます。登場人物たちが語る情報が複雑に絡み合い、読者自身が事件の真相を推理する楽しみがあるのも魅力の一つです。しかし、ある決定的なポイントで、読者の認識を覆すような仕掛けが施されており、このトリックが本作最大の特徴となっています。
物語が進むにつれ、伏線が巧妙に張り巡らされていることに気付きます。読者は細部に目を向けることで、後に明かされる真相の一端を垣間見ることができますが、その一方で、ミスリードによって思わぬ方向へと導かれることも少なくありません。このように、作者の緻密な構成が際立つことで、単なるミステリーの枠を超えた奥深い作品となっています。
さらに、叙述トリックが効果的に使われており、読者は無意識のうちにミスリードに誘導されるようになっています。単なる意外な展開ではなく、物語全体がそのトリックを支える構造となっているため、一度真相を知った後でも再読すると新たな発見があるという点も、本作の大きな魅力です。こうした点が、『十角館の殺人』が名作として語り継がれる理由の一つとなっています。
読者を驚かせる巧妙な伏線とトリック

『十角館の殺人』には、巧妙に配置された伏線が数多く散りばめられています。登場人物の会話や行動の中に、後になって意味が変わるようなヒントが隠されており、初読では見落としてしまうものも多いです。それは、単に情報量が多いためではなく、読者が自然に特定の先入観を持つように巧みに誘導されているからです。
さらに、伏線は単なるヒントとして機能するだけではなく、ミステリーの根幹に深く関わる要素としても配置されています。たとえば、登場人物の何気ない一言や行動、さらには特定の人物の存在そのものが、事件の真相に大きく影響を与えていることが明らかになります。このように、細部に至るまで計算し尽くされた構成は、読者に強い印象を残し、再読した際に新たな発見をもたらします。
特に、物語のクライマックスに向けて張り巡らされた伏線が次々と回収されていく展開は圧巻です。読者は、初読時には気づかなかった情報が次第に明らかになり、点と点が線として繋がっていく感覚を味わうことができます。驚きと興奮の連続の中で、最終的に一つの真実へと収束するプロセスは、まさに綾辻行人の計算された構成力の賜物と言えるでしょう。
叙述トリックの真髄!『十角館の殺人』の秘密
- ミステリー小説の叙述トリックとは?
- 「衝撃の一行」に仕掛けられた驚愕のトリック
- ドラマ版との違いを比較
- 『十角館の殺人』はどこで読める?
- 叙述トリックを駆使した他の名作ミステリー
ミステリー小説の叙述トリックとは?

叙述トリックとは、小説や物語において、文章の表現方法や語り手の視点を巧みに操作することで、読者に意図的な誤解を生じさせる技法のことを指します。これにより、物語の途中まで読者が特定の思い込みを持ち、終盤でその認識が覆されることで驚きや感動を引き起こす仕掛けが生まれます。
叙述トリックにはいくつかの代表的なパターンがあります:
語り手の誤認
物語の語り手(ナレーター)が事実を隠したり、読者をミスリードする形で描写することで、読者の認識を歪める手法です。例えば、一人称で語られる物語の語り手が、実は犯人であると終盤に明かされるような展開が挙げられます。
視点のすり替え
読者が特定のキャラクターを主人公だと誤認するように誘導し、後になってその認識が覆る構造です。たとえば、複数の人物の視点が交錯する中で、読者が「この登場人物が語り手だ」と思っていたものが、実は異なるキャラクターであったことが明かされるパターンがあります。
時間や空間のトリック
物語の時間軸が前後していることを読者に意図的に気づかせず、ある時点で「実は過去と現在の出来事を混同していた」とわかるような構成です。これにより、読者が持っていた前提が崩れ、物語の全貌が異なるものに見えてきます。
人称や立場の誤認
ある登場人物の性別や年齢、職業、あるいは生死の状態などを意図的に伏せることで、読者が誤解をしたまま物語を読み進めるように仕向けます。そして、物語の終盤で「実はこの人物はすでに亡くなっていた」「実は双子の兄弟がいた」などの事実が明かされ、読者の認識が一変する仕掛けです。
叙述トリックの魅力は、単なる意外な結末を生むことにとどまらず、読者に「自分がいかに無意識に情報を受け取っていたか」という気づきを与える点にもあります。巧みに計算された叙述トリックは、物語の再読を促し、新たな視点で読み直す楽しみを提供してくれるのです。
「衝撃の一行」に仕掛けられた驚愕のトリック

「衝撃の一行」として知られる『十角館の殺人』のトリックは、読者が無意識のうちに登場人物についてある誤解を抱くよう巧妙に仕組まれています。この作品では、語り手の視点を利用し、読者がある特定の登場人物の正体を無意識に誤認するよう誘導されています。
具体的には、作中で「○○はもういない」という一文が登場します。この一文が示す「○○」が誰を指すのかについて、読者は物語の流れから自然とある人物を想像します。しかし、実際には読者の認識とは異なる人物が指されており、その瞬間に物語全体の見え方が一変するのです。
このトリックが強烈なのは、それまでの読者の認識が無意識のうちに誘導されていたことを自覚させられる点にあります。読者は、作中で与えられた情報を基に推理しながら読み進めますが、その情報の解釈が決定的に誤っていたと気づかされた瞬間、驚愕とともに物語の全容が理解できる構造になっています。
この手法は、ミステリーにおける「叙述トリック」の代表例とされ、読者の認識を揺さぶる鮮やかな技法として、多くのミステリーファンを魅了しました。
ドラマ版との違いを比較
『十角館の殺人』はこれまでに何度か映像化の企画が立ち上がりましたが、叙述トリックの巧妙さが映像作品において再現しにくい点が課題となりました。小説ならではの表現方法をいかにして映像化するかが焦点となるため、ドラマ版ではナレーションの使い方や視点の切り替えが工夫されています。
特に、映像作品ではカメラの視点が固定されるため、読者が想像する余地を持たせる小説とは異なり、視覚的に情報を提示する必要があります。これにより、叙述トリックの要となる「読者の先入観を操作する技法」が伝わりにくくなってしまいます。そのため、映像版ではキャラクターの視点を意図的に切り替えたり、編集技術を駆使してミスリードを生み出す試みが行われています。
また、小説では文章の構造によって読者を誤誘導することが可能ですが、映像化する際には「カメラがどこを映すか」「ナレーションをどう活用するか」といった技術的な工夫が必要になります。その結果、ドラマ版や映画版ではナレーションを多用したり、視点の切り替えをより大胆に取り入れることで、小説の持つ独特のトリックを再現しようとする試みが見られます。
原作とドラマ版を比較することで、叙述トリックの持つ独特な効果を改めて実感できるでしょう。また、どのような手法が映像に適しているのか、どの部分を改変することで視聴者に同様の驚きを提供できるのかといった点を考察することも、作品をより深く楽しむポイントの一つと言えます。
『十角館の殺人』はどこで読める?
現在、『十角館の殺人』は紙の書籍だけでなく、電子書籍やオーディオブックなど多様な形式で楽しむことができます。紙の書籍は書店やオンラインストア(Amazon、楽天ブックス、紀伊國屋書店など)で購入可能です。電子書籍はKindle、Kobo、BookWalkerなどのプラットフォームで配信されており、スマートフォンやタブレットでも手軽に読むことができます。
また、Kindle Unlimitedやdブックなどのサブスクリプションサービスで配信されていることもあるため、興味がある人はチェックしてみると良いでしょう。
叙述トリックを駆使した他の名作ミステリー

『十角館の殺人』以外にも、叙述トリックを巧みに活用したミステリー作品は数多く存在します。
- アガサ・クリスティ
- 『アクロイド殺し』
- 『そして誰もいなくなった』
- 『オリエント急行の殺人』
- アンソニー・ホロヴィッツ
- 『メインテーマは殺人』
- 『カササギ殺人事件』
- 歌野晶午
- 『葉桜の季節に君を想うということ』
- 『密室殺人ゲーム』
- 米澤穂信
- 『氷菓』
- 『インシテミル』
- 横溝正史
- 『本陣殺人事件』
- 『八つ墓村』
- 東野圭吾
- 『白夜行』
- 『容疑者Xの献身』
- 綾辻行人
- 『館シリーズ』各作(『水車館の殺人』、『時計館の殺人』など)
これらの作品はいずれも巧妙な叙述トリックやミステリー要素を持ち、読者を意外な結末へと導く作品ばかりです。ミステリーファンなら一度は手に取ってみる価値のある名作揃いです。
十角館の殺人の魅力と叙述トリック まとめ
『十角館の殺人』は、ミステリー小説の醍醐味を存分に味わえる傑作であり、その巧妙な叙述トリックによって、多くの読者を驚かせてきました。初読の衝撃だけでなく、再読することで新たな発見がある作品でもあり、ミステリーファンなら一度は読んでおくべき作品といえるでしょう。
